以下の説明を読み、すんなりと理解していただけるのは、私の講義に出席された方と新刊『基礎から最高峰を目指す四柱推命の本』の読者だけでしょうが、現状ではまだ少部数しか世の中に流通していませんので、読者の対象が少ないことを承知の上で、あえて、こうした形で情報を発信することにしました。
『鬼谷子算命術』の原書の現物
運命学関連の古書に『鬼谷子算命術』という本があります。「算命」という言葉は、日本で数十年前、泉宗章著の「算命学」関連の本が、「天中殺」を前面に出してベストセラーになりましたので、ご存じの方も多いのではないかと思います。しかし、この『鬼谷子算命術』という本はどのような本なのかをご存じの方は、あまりいらっしゃらないと思います。
ネットなどを見てみますと、この書は「算命術の原書」であるという説と、「四柱推命の原書」であるという説が見られます。
「算命術の原書」であるなら、私には無関係ですので、どうでもいいのですが、「四柱推命の原書」であるという説は聞き捨てならないので、手元にある実際の本を見ながら、ちょっとその内容をご紹介します。
手元にある本のタイトルは『真本 鬼谷算命術』です(写真参照)。奥付は、「中華民国63年4月8版」。台湾の「竹林書局」から発行されています。中華民国63年は、西暦1974年です。
今まで、他の出版社から出ている同名の本を何種類か見かけたことがありますが、いずれも厚さ4~5ミリほどしかない小冊子でした。ほかに『鬼谷算命術』というタイトルが付けられた本を見たことがありませんので、おそらくこれが「算命術」の原書とされている唯一の本なのでしょう。
鬼谷子とは何か?
さて「鬼谷子(Kikoku-shi)」とは何か? これは人名です。「子」は成人した男子に付ける敬称ですから、「鬼谷」は自身が名乗る時に使用し、「鬼谷子」は他の人からの敬意が込められた呼称です。かつて、鬼谷子は著名な思想家という話を耳にしたことがありますが、『真本 鬼谷算命術』に、この著者とされている人物について、次のような解説があります。
「鬼谷子は、王名通と名乗る。周代の人。算命、星相家の鼻祖となす。ゆえに歴来の星命数術家はこれを祖師と奉る。」(原文は三つ目の写真中に掲載されている)
※星相:「星」は、星曜系の占術。星曜系とは天体の動きを元にしているので、占星術に近い。「相」は、観相術。人相、手相がこれに属する。「命」には、四柱推命が含まれる。
※鼻祖:最初に物事を始めた人。元祖(がんそ)。始祖。
人名辞典で「王名通」調べてみますと、該当する人物は見当たりません。「王通」(518~618)という隋代の学者は掲載されています。
ネットで検索してみますと、「焉三文中子姓王名通字仲淹。隋末隱居唐太宗朝郡臣皆師事。」とあり、「王名通」と「王通」は同一人物であると書かれている文献も存在します。
しかし、『鬼谷算命術』には「周代の人」とあります。周は紀元前222年に滅んでいますが、隋代は、589年から618年ですから、まったく時代が異なります。結局のところ、『鬼谷算命術』にある「王名通」という人物に関することは、まったく考証が不可能ということになります。
Wikiを参照しますと、「鬼谷は戦国時代の斉の人であるが、斉の稷下の学士であったかどうかは不明であり、専門といえば、国際外交のような謀略である。学問というよりは、術のようなものに属していた。」とあり、実在の人物かどうかは不明となっています。
支那には昔から著作権の概念がなく、本を出す時に、その価値を上げるためか、歴史上の偉人や著名人の名を冠していることがしばしばあります。諸葛亮孔明著という、いかにも怪しげな書さえ存在します。ですから『鬼谷算命術』は、以下に述べるような内容の貧弱さからして、せいぜい数百年前に出刊された偽書・偽作の可能性が高いと考えるのが妥当であろうと思います。
鬼谷子が実在の人物であるなら、次のサイトにあるような内容が専門で、占術には無関係であったのではないかと思います。
◇雜家 -> 鬼谷子
『鬼谷子算命術』の内容
手元にある『真本 鬼谷算命術』はわずか108ページの小冊子です。二つ目の目次の写真を参照していただけばわかると思いますが、十干を二つ組み合わせて、10×10の100に分類して、甲甲、甲乙、甲丙・・・として、100通りの吉凶や事象を論じているだけです。
さらに見てみますと、「年干が甲で時干が甲」であるなら、「甲甲」のところを参照とあります。そしておもむろに「甲甲」のところを参照しますと、「甲子、甲寅は、天貴星」とあるのです。つまり、年干支か時干支が甲子か甲寅であったなら、「天貴星」に該当するそうです。
三つ目の写真は「甲甲」の解説ページです。「年干が甲で時干が甲」であるだけで、さまざまな事象を知ることができるとしているのです。
四柱推命と同じように、算命術でも干支暦を使用していますが、共通点はこれだけで、内容は四柱推命と似ても似つかぬものなのです。これを「四柱推命の原書」などといわれてはかないません。
日本で流行っている風水もそうですが、中国に該当する原典は存在しません。風水という言葉は中国由来ですが、中国と日本では意味が異なります。同様に、日本で知られている「算命学」「算命術」も、その内容のほとんどは中国由来ではないと思われます。ごく近年になって、日本人が魔改造して新たな運命学に仕立てあげたのでしょう。
最後に言っておきます、「四柱推命の原書」は、名著『滴天髓』でしょう。
詳しくは、『サクサクわかる 四柱推命の本』を参照してください。
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★紙の本/「基礎から最高峰を目指す 四柱推命の本」 準拠。『干支一二〇年暦』1918年
<大正7>~2037年<平成49>
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